第1章

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この学校の生徒で、榊原美雪先輩のことを知らないひとはいないだろう。 容姿端麗で成績優秀で陸上部のエース。短く揃えた髪と切れ長の瞳が印象的で、すらりと長い足で彼女が歩けば、そこにいる誰もが振り向かざるを得ない圧倒的な存在感。まさに、全校生徒の憧れなのである。 私もまた、榊原先輩に憧れる女子生徒のひとりだった。 自分で言うのもなんだけれど、私は、先輩とは違い、生れながらにして凡人である。「山村花子」というなんの捻りもない名前に、ゴマ粒を並べたみたいな地味な顔立ち、細くも太くもないのっぺりとした体型、頭から足元の爪の先に至るまで、何ひとつ特筆するべき要素が見当たらない。おまけに成績も中の中で、自己主張も苦手なために、新学期が始まって3ヶ月が経ったいまでも、クラスメイトの大半はおそらく私の名前すら覚えていないだろう、と思える存在感のなさである。 榊原先輩は、どこにいても目立っていた。自分にないものをたくさん持っている先輩に密かに憧れを募らせた。 私が先輩と初めて会話らしきものを交わしたのは、6月のある放課後のことだった。
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