第1章

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その日は雨で、陸上部は休みだった。今日は先輩を見れないのか、と私はがっかりしつつ、残っていてもやることがないので帰ろうとする。 学校を出たところで、なにやら挙動不審な動きをする人物がいた。榊原先輩だった。私はなぜかとっさに校門の陰に身を隠した。 先輩はキョロキョロと辺りを見回し、傘で顔を隠すようにして、早足で歩いていく。 なにをしているのだろう?ものすごく気になった。 先輩がひとりでいること自体珍しいけれど、いつも堂々として自信に満ち溢れている先輩が人目を気にするというのも意外だった。 もしかして、なにか、人に見られたらまずいことでもするのだろうか。 私はこっそりと先輩の後を追うことにした。 意外にも、尾行はうまくいった。存在感がなくてよかったと思う。通行人は榊原先輩の美しさに見惚れることはあっても、その後ろをついてくる不審な女には目もくれない。傘で顔が隠せるのも好都合だった。ひょっとすると、私は尾行にかなり向いているのかもしれない、とまで思いはじめていた。 そして、尾行はなかなか楽しかった。学校では決して見られない、先輩の意外な一面をたくさん知ることができた。たとえば、先輩は身体能力や頭脳だけでなく、女子力も高いらしいということ。 先輩は駅前にあるコーヒー豆や輸入食品なんかを取り扱っているらしいおしゃれなお店に入っていった。店内に足を踏み入れた瞬間、喫茶店にでもいるかのようにコーヒーの芳醇な香りをふくんだ空気が漂ってくる。そんなところに縁のない私は、すこし緊張しつつも思いきって足を踏み入れた。先輩が熱心に見ていたのは、お菓子づくりのコーナーだった。先輩がお菓子づくりに興味があるとは意外だと思いながら、私は棚の陰からこっそりその様子を眺めていた。
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