26人が本棚に入れています
本棚に追加
―――気にしてくれたのか。彼女が俺の事を。
白井の顔に笑みがこぼれた。
「ひどかったからか? 俺の状態が」
「ええ、結構。だから、クリスマス期間なのに大変じゃないかと思いまして。すぐつまめるものでもって」
―――どうして、彼女は……。こうも簡単に俺を喜ばせてしまうんだろう。どうしたって抱きしめたくなってしまう。でも、そんなことしたら永遠にきっと彼女には会えない。せっかく、こうして来てくれたのに。
「会っていってほしかった」
欲望のままに彼女を抱きしめる行為は、これ以上ないくらいに嫌われる事を意味する。白井は、理性を保ち伸ばしかけた腕を静かに引っ込めた。
「え?」
「せっかく来たなら、会って元気付けて欲しかったもんだな」
「はあ」呆れ顔の貴子。
「どんなに疲れていても、へたばっていても、藤谷さんに会えば忘れられる」
「大袈裟ですね」貴子が、ふっと見せた笑い顔。それを見て白井も微笑んでいた。
「ありがとう。嬉しい。俺にしたら最高のクリスマスプレゼントだ」
「良かったです。思ったより部長が元気そうで」
貴子の髪が風に揺れた。笑うと少しだけ見える左頬のえくぼ。
―――見てるだけで心が高鳴る。彼女の事をどうやって忘れられるんだ? 到底無理だ。
最初のコメントを投稿しよう!