高校3年生

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  「その次が7年前の大祭の1週間前の伊月。  大祭のとき拝殿にいる佐藤を見ても疑問を持たないよう、父さんが予め伊月に全て話したらしい。  だから、母親の死について悩んだのは、実質1週間くらい。  それまでは伊月も可愛く、片思いの迷信を信じてたから」 「え? 1週間?  短くて良かったような、(せわ)しないような…」 「で、俺が知ったのは…。  母さんが俺を産んだせいで死んだと知ったのは、すごい小さいときから。親戚の話を聞いちゃって。  佐藤が父さんの子なんじゃないかと思い始めたのは小学生の頃からかな。漠然とね。  でも、父さんから説明があって全てを知ったのは一昨日なんだ。  でも俺、佐藤だけに力が遺伝したことより、力が片思いには関係ないことの方に衝撃を受けた。  その話はさっきしたね。  莉花ちゃんを好きな気持ちに恥じるところはないけど、事実を知ったのが二人より遅いのと、家のことより恋愛が先に来てるこの状況は…情けないよね」 「情けないかどうかはわからないけど、遅くはないと思う。  佐藤くんは別として、年齢的には伊月くんより早い」 「そうだけど、家のことより、空回りの期間が長過ぎた恥ずかしさで、死ぬかと思った」 「神社の息子が迷信を信じ込んでる、とはな。  親父に聞けば良かったのに」 「うるさい。  聞けるかよ、恥ずかしい」 空回りの期間が長すぎた、と悔いる陽翔くんの表情が、何故か晴れやかに見え、 私は、同じ期間、近隣愛で感じていた虚しさを対比のように思い出していた。
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