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「へぇ、それで栗本いないんだ。
伊月さんがねぇ」
昨日は1本早かったけど、今日はいつもと同じ電車で、
いつもと同じように私の右隣で吊革に掴まった佐藤くんが、感心したように話していた。
昨日は別として、
私の左隣に陽翔くんがいるのが今までと違うところだ。
「今朝から栗本さんも電車で一緒だって身構えてた分、拍子抜けなんだよね」
「気にすんの栗本じゃなくね?
伊月さんに何があったわけ?
庄司の迷信の呪縛が解かれたのは伊月さんも知ってるんだろ? ───」
佐藤くんがひょいっと顔を出し、陽翔くんに聞いた。
「─── 庄司、おまえ、伊月さんに何か言った? 」
「何も言ってないよ。
頬キスのこと責めようと思ってたのに、帰ってこないし」
「頬キ…って、だから、それは、」
私は極力小声で陽翔くんに注意した。
目の前に座る常連の乗客たちが聞き耳を立てているのがわかって恥ずかしかったから。
スラックス姿の私は、男なのか女なのか判別したがる人にジロジロ見られることが多く、慣れもあったけど、
今、目を逸らしながら、手元の動きを止め、耳だけ澄ましている人たちを前に緊張していた。
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