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「ねぇ、今日この後時間ある?」
「うん、あるけど何?」
「家、行っ……
……また同じパターンか。
ありきたりなんだよ、展開が……
「ねぇ、今日この後時間ある?」
「いや、今すぐここから解放してくれ」
「何言ってるの?だいじょ……
……ダメだ。
いくら言い方を変えても、このやり方では女が出てきて会話するだけで終わる。
今度は身体を使ってみるか……
(……っしょと!!何かかわったか!?)
「……きゃ!」
前の席に座っていたさっきと違う女が一瞬声を上げ、すぐに両手を口に当て慌てて逃げていった。
当然だ、なんせ俺は全裸になったのだから。
数分後の俺はきっと警備員に連行されて警察のお世話になるのだろう。
だが、今の俺はまた10秒前に戻る。
そう、『また』だ。
こんな事をもう何回繰り返したか。
気の遠くなるような時間が過ぎた。
時間という概念すら、もう俺には無意味なものだった。
いい加減この図書館にも飽きた。
それもこれもこの『千本ノック』と言うシャープペンシルに見立てた、時間操作が可能な装置のせいだ。
地球好き、野球好き、文具好きな俺の先生が造った紛らわしい装置だ。
どういう仕組みなのか、ペンの頭を一回ノックすると10秒だけだが時間が戻るというもの。ただし、千回ノックすると時間が永遠に繰り返されてしまう……らしい。
『らしい』としたのは、まだ誰も試したものがおらず、あくまでも今現在の、自分が置かれた状況からの推察によるものだ。それと先生の説明。
当然だ、先生は俺を実験台第一号にしたのだから。
前例がある訳がない。
しかし、『千本ノック』にはちゃんとカウンターが付いており使用回数もまだ763回だった。
それが突然ループし始めたのだから俺は焦った。
正に南無三だ。
もしかしたらループから脱出する方法があるかもしれない。そう思い、色々試した。
そう、例えば、この席から二つ横の席に座っているあの男の隣に行って、耳に息を吹きかけたり、この席から時間以内に触れる本を片っ端から触りに行ったり、俺の前方8メートル離れた女に告ったり。
いや、告ったのには自分でも笑ったなぁ。
全速力で女の正面にまわって、手を握って必死の形相で『時間がない!付き合ってくれ!』だもんな。
女からすれば大パニックだろう。
脱出トリガーの存在を信じて俺は試し続けた。
無論、闇雲に進めても埒が明かないので体系的に取り組んだ。
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