58人が本棚に入れています
本棚に追加
今日朝9時から始められたオペ。症例は「原発性肝癌」患者は40代女性。検査で肝臓に異常がある事が解り、精密検査をした結果右葉に原発性の癌がある事が解った。癌の大きさもMRI上では、さほど大きなものではなかった。
患者の負担と効率を考慮し、腹腔鏡でも適応範囲でもあった為、腹腔鏡でのオペが開始された。
いつも通り、麻酔科医からバイタルが告げられる。
「心拍70、血圧110の65でサイナス」
患者は全身麻酔で眠っている様に静かに術台の上にいる。
何時もの通りだ。
「それではこれから開始します。宜しくお願いいたします」
オペの開始時、緊張? そんな事を思い出すのは研修医の頃の事だろうか? あの頃は何もせず、ただオペの経過を見ているだけで緊張していた。
その頃の自分をふと思い出すと笑みがこぼれる。
いまや、そんな緊張と言うものは自分では感じていなくなっている。
すでにやるべきことがこの手に、そして頭に染み込んでいる。
メスを握る前からその構図と経過はもう映像の様に脳内に映し出され、私の手はその通りに動き出す。
予定通り腹腔鏡が体内に設置され、モニターを見ながら患部の切除に取り掛かる。
切除した肝臓の部位をモニターで再確認をする。綺麗なものだった。
しかし……モニターに映し出されたある一部に目が留まる。
「なんだこれは? MRIではなかったはずだが……」
最初のコメントを投稿しよう!