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「時に居士。朔を待たずして圭の記憶が戻り、角まで発現した。其方の術はどうなっている」
居士はジークをチラリと一瞥して、着物の袖で口を隠しながら笑った。
「ホホホッ。それは公のご寵愛が過ぎるがゆえの副作用に御座りますれば」
「戯けた事を助平爺ぃめ」
「爺ぃとは異な事。手前など、公に比ぶれば年端もゆかぬ鼻垂れ。ま、秀吉めに殺された時が爺ぃと言えば爺ぃでしたかな」
「皮肉か」
果心居士は安土桃山時代、織田信長を愉しませる幻術師として隆盛を誇ったが、信長の没後、豊臣秀吉にペテン師として処刑された。別名、七宝行者とも言う。死後、物の怪と化した所を宗親に依って召し抱えられ、妖術師として仕えるようになった。今は宗親の命でジークの側近となり、空間と記憶を閉じる役目を得ている。『閉じる』能力が滅法強いからだ。
「以前は望月の閨事など、寝て起きたら忘れていたのだ。しかも所々を思い出すゆえ、過去の自分にまで悋気を起こす。私は生きた心地がしなかった」
「坤守家は御前様のご生家に御座りますれば」
「遺伝で悋気を起こされては敵わぬわっ」
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