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噂をすれば、と鴉天狗が呟く。そして錫杖を頭上に構え、上座のソファの上に振り下ろした。この鴉天狗は空間でも電波でも、それを『繋ぐ』能力に長けており、ドラゴーシュ城のアンテナ役を務めている。
錫杖の周りには紫色の渦が巻き、やがて大きくなり、その渦の中心から洋装の長身美女が現れた。ソファに深く腰を下ろすと、居士と鴉天狗はそちらに向かって再び伏す。
「御前様に於かれましては」
「堅苦しい挨拶は抜き抜き~~顔上げて~~二人ともお疲れさま~~」
見た目は近寄りがたいほどの美貌の持ち主で、一つに引っ詰めた長い髪が更に目を吊って迫力があるが、宗親の正妻・鈴鹿はとても砕けた気質だった。
「歌舞伎はいかがでしたか?」
「そりゃー公爵さま!当代幸四郎の二枚目っぷりったらありませんよう☆先代も若い頃は凄まじい色気だったけど、すっかりお爺ちゃんになっちゃって」
「人は老いるものですから」
「鬼のように死期が来て初めて、みるみる老け込むのとどっちがいいんでしょうかねぇ」
「私には解りませぬゆえ何とも」
鈴鹿はジークを見るにつけ、不老不死とは過酷なものだと思っていた。こんなにも美しく優しい男が、生き続ける苦悩を抱いて……不憫でならなかった。そして束の間でも、自分と同じ出自の者が慰めに成り得るならば、助けになってやりたいと願っている。
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