奥隈町奇譚

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  宗親と鈴鹿は異母姉弟である。強い直系の血脈をより濃く残す為、近親婚は物の怪の常ではあるが、中でもこの夫婦は非常に仲睦まじく、また鈴鹿は鬼としては珍しく多産で、百を越える鬼の子を生んできた。が、その血の濃さからかヒト型になれぬ者も多く、その者たちは非常に短命だった。それでも元気に育った直系が十数名いる為、坤守家はこの四百有余年、裏鬼門の守護職のみに徹する事が出来ている。 本来、鬼凝りの秘術は直系の血が絶えかける時、坤守家から後継を出すために授けられるもので、現状では必要がない。が、ジークのたっての願いから、この七年間施されてきた。 「血が濃くなればなるほどドラコとは相容れん。俺もすずも子供達も箱庭には五秒も居られねぇし、お前ぇの気が弱まる朔の日以外、こうして会うことも儘ならんがなぁ」 「坤守からは時々相性の良いものが出るのさ。それもまた縁ってヤツなんでしょうねぇ公爵さま」 縁。その縁だけを頼りに、ジークは二百年を待った。時にその魂は犬や猫として、或いは植物として生まれ変わって来たが、漸く想いを、言葉を通じ合える存在として、ジークの前に現れてくれた。 「清四郎(せいしろう)はあたしの従弟……幼い頃からすず様すず様と慕うてくれて、それは可愛かった。まさか百年かそこらで、谷風邪(※インフルエンザ)にやられちまうなんて……今思い出しても泣けて来ます」
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