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また子が増えるな、と居士と鴉天狗は思う。だが、それは慶ばしい事だ。この国には八百万の神々と同じくらい物の怪が居るが、その長は鬼でなくてはならない。鬼が統べて初めて、物の怪は人間と共存する事が出来る。
物の怪たちの主食は人間の精気である。人が絶えれば物の怪もまた絶えてしまう。人は物の怪が居なくとも生きてゆけるが逆はない。鬼は過去の失態からそれを学び、均衡を保つ事をここ数百年続けている。決して争わない。知恵こそが美しい花を咲かせ、豊かな実を結ばせる事を、ここに居る者たちは知っている。
「鬼はこの世で一番優しい。番を、家族を心から慈しみ、争いを好まず……樹々に花に心を寄せる。人間など、自然を侮り同族同士で殺し合う、醜く下劣な生き物だ」
「だがなぁ。その醜くも下劣な輩から精気を貰わにゃ生きられんのが物の怪よ。薔薇の瘴気だけで生きられるドラコとは端っからつくりが違う。因果なもんなのさ」
圭も同じく、人間界に身を置いてこそ鬼としての長命を授かれる。あの閉じられた部屋の中ではそもそも生きられない種族だ。今は人間界で滞りなく生きる術を身につけなければならない。
「だが居士。離れている間に圭が事故にでも遭うたら……!また病を貰うたりしたら……!」
「今は医術が発達しておりますゆえ谷風邪などは三日で治りまする。事故など守護職を務める限り起こりませぬ。この国には戦もございませぬゆえ」
「本当かっ……本当だなっ……」
「心配ばかりされていては老けまするぞ」
「皮肉かっ」
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