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奥隈学院大学の建築学科4年、ヴォーリズ建築を主に学ぶ圭は、5月に22才になったばかりだ。この町で生まれ育ち、今は一人暮らしをしている。圭が二十歳(はたち)になった年、北九州で単身赴任をしていた父のもとに母も越して行ったからだ。四つ年上の姉は関東で就職している。 5月末の陽射しは日に日に強くなり、大学までの坂道を自転車で漕いで上がるとあっという間に汗だくになる。お陰で、毎日Tシャツの替えが欠かせない。 「電動自転車欲しい……マジ欲しい……」 段々と勾配のきつくなる坂道を登りきり、正門の手前で振り返る。圭は、奥隈町では一番高いであろうこの場所からの眺めが好きだった。眼下に見える駅前の町はもともと城下町で、ちょうど京都のように碁盤の目状に区画整理されている。線路で分断された向こう側は駅前通りに沿う商業施設のビル群。その向こうには海が見え、その間にマンションや住宅が建ち並ぶ。 大きくも小さくもない町を眺め、今年も6月が来る事に訳もなくほっとしていた。
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