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全国にヴォーリズ建築は散見されるが、奥隈学院大学別館もそのひとつ。圭は幼い頃からこの建物に惹かれていた。家は無宗教だが、小学校の同級生にクリスチャンが居て、学内の小さな教会で開かれる日曜学校やクリスマス・ミサに連れて来て貰っていた。最初はお菓子が目当てだった。 中学生になった頃、心の拠り所としての宗教ではなく、学問としての宗教に興味を持った。建築物や絵画、美術工芸品、圭が惹かれるものはどれもキリスト教がベースになっている。中でも建築物への興味は尽きる事が無く、自然に建築士を志すようになっていた。 奥隈城公園の中にある博物館はかつての君主、奥隈家ゆかりの品々や所有していた美術品の展示を主としていて、規模としてはさほどでもない。ただ、大正時代に建てられた古めかしく瀟洒な館舎がやはり圭の心を捉えていた。隣接する図書館も同様だ。この二つの建物はアーチルーフのついた渡り廊下で繋がっていて、圭は緑を間近に感じられるこの場所をとても気に入っている。 渡り廊下の中央、円形に石畳が敷かれた場所には階段があり、そこを下りると建物の一階基底部。博物館も図書館も山に沿う形で建てられているため、出入り口があるのは地上のグランドフロアで、地下のように見えるのが一階にあたる。駅のホームから見ると二階建てだが、裏手の出入り口に回ると一階建てにしか見えない格好だ。
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