epilogue

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西奥隈駅から徒歩数分。14階建てマンションの最上階、北・東・南に面する角部屋が圭の自宅。圭が生まれる前から家族でここに住んでいて、今、一人きりだと広過ぎるとつくづく思う。母親が北九州に行く際、ここは賃貸に出して圭は大学近くのワンルームマンションに移る事を望んだものの、大反対されて今に至る。『無人にする事は許されない』と頑なだったけれど、誰が誰に対して許すのか許さないのか……圭には不思議だった。 でも、圭はここからの眺めが好きだった。視界にはこれより高い建築物がない。部屋を三方位囲むベランダは櫓のようで、南側は海、北側は丘陵地に建てられたマンション群が見え、その夜景は人工物の塊……要塞のようにも見える。そして北東には一際緑深い奥隈城跡を手前に、奥隈学院大学の別館が望める。ヴォーリズが手掛けた学舎はちょうど山の上に建つ城砦にも見え、圭は子供の頃から憧れていた。 もうすぐ卒業………院に進む事は出来るだろうか。大正建築の保持保全や修復について、学びたい先生が居る。
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