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奥隈博物館、職員部屋の応接室。
アーコールのソファで膝を抱え、さめざめと泣き続ける銀髪の男を見下ろす大男が居た。
「ドラコの。いい加減泣き止まねぇかい。満願成就まであと四年……お前ぇにとっちゃあ瞬く間だろうが」
「ドラコと呼ぶな」
「ドラ公って呼ぶと怒るからじゃあねぇか」
「鈴鹿どのと歌舞伎でーとして来たからと言って、その芝居掛かった口調は如何なものか」
「おう、大江山で退治されてやったぜぇ」
満月の夜には肉の身を得、血の色の瞳を光らせるジークだが、新月には涙が滔々と湧き出て来る。もうこれで七度目なのに別れはいつも辛い。
「見てみな。西町の砦から、坤守の倅もお前ぇを想って泣いてらぁ」
「記憶が無いのに泣く訳がなかろうっ……!ああ圭……!私の愛し子……!」
この男も十分芝居掛かっていると思いつつ、大男は煙草に火を点けた。
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