奥隈町奇譚

4/16
前へ
/108ページ
次へ
  やがて部屋に、黒い制服姿の男二人が入って来た。一人は白髪混じりの年配者で、圭は店長と呼ぶ。もう一人は三十過ぎ、小柄で、鈴木と呼ばれている。 17:00、喫茶室の閉店後は出向先の主人の世話を焼かなければならず、なかなか忙しい日々を送っている。 「今年も長い一日でしたね~。七宝行者(しっぽうぎょうじゃ)さまに於かれましては閉じ役、まことにお疲れ様でした」 「うむ。小天狗も繋ぎ役、大儀であったな。さて、ドラゴシュ公はまた泣いておられるのであろうか」 「涙の川に溺れんばかりでございましょう」 歩くうち、店長は茶人か俳人かと言った宗匠頭巾を被った和服姿になり、鈴木はポンと小さくなって黒い羽根が生え、山伏の装束を纏ったカラスになった。顔の半分くらいの大きな嘴、四本指の手には六つ輪の錫杖を持ち、目つきが鋭い。カラスと言うより二頭身の小動物のようで愛らしくはあるが、焦ったようにパタッパタッと飛び回り、落ち着きがない。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加