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応接室の扉は横開きで、二人はその前に正座して伏した。
「果心居士、鴉天狗、共に罷り越しました」
「入れ」
内からの声にカラカラと扉を開け、すすっと進む。
「これはお館様。ドラゴシュ公もお揃いで」
「ご健勝なご尊顔を拝し奉りっ恐悦至極に存じまするっ」
鴉天狗はパタッパタッと羽ばたいて、果心居士の肩の上でやはりまた伏した。
「お前ぇ達、薔薇の瘴気がすっかり染みついてらぁ」
「御前様と歌舞伎デートでしたか。ご夫婦仲睦まじく、殊の外お慶ばしい」
「すずは昔っからの高麗屋贔屓。染五郎染五郎と……しゃらくせぇ」
「当代幸四郎は美男子ゆえ」
「染五郎でも幸四郎でも、亭主が殺られて大喝采たぁ了見が合わねぇ」
ジークは気色ばむ大男を見るにつけ、鬼は誠に悋気が過ぎる、と溜息が出た。そしてどうしてもそのべらんめぇ口調が疳に障る。江戸から引き揚げて百五十年……まして宗親は江戸っ子でもあるまいに。
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