第一話

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 余談だが、その勇者が人間だったことが起因して今の人間主体の世界が出来上がった。  そんな英雄勇者だが、最近は事情が変わってきているという。  近年世界各地で魔物が増え、勢力を増してきている。その事態に魔王の復活を危惧した各国の王は数いる冒険者の中から勇者となる者を選定すると宣言、それに触発された冒険者達は薬草の採取などという地味な仕事には目もくれず、何とか勇者に選ばれようと王都で戦いに明け暮れているという。 「…なるほど、そんなことが。」 「…はい、僕のお父さんもそれで出て行ってしまって、もう何年も帰ってこないんです。」  ネロは今の冒険者についてベリーに話した。 「…しかし何がともあれ今日はもう遅いですし、よろしければ村までお送りしますよ。」 「え、いいんですか? レストランは?」 「ふふ、ご安心ください。こんな森の中にあるレストランなのでいつも閑古鳥が鳴いております。少し開けても何も問題ありません。それにネロ様は大事な『お客様』ですから。」 「で、でも今はもう夜ですし、魔物が活発になって危ないんじゃ…」  不安げにそう言うネロにベリーはふふっと不敵に笑う。 「大丈夫ですよ、魔物達は近寄ってきませんから。」 「?」    ネロはベリーの言葉に疑問を抱いたものの、彼女が自信満々な様子なので安心した。安心したネロは母親や妹が心配だったのでベリーの言葉に甘えることにした。 「さて、行きましょうか。」 「は、はい。」  ベリーに手を引かれ、ネロは村に向けて夜の森を歩くことになった。ベリーが一緒とはいえ夜の森は少し先も闇に包まれていて不気味だ。少し怖くなったネロはベリーの手にしがみつく形になった。 「ネロ様、あなたの村はどんな村ですか?」 「ラベール村という村です。キラーグレープという果物が自慢なんですよ。」 「なるほど、その村ならこちらですね。」  どうやらベリーは周辺の地理に詳しいようだ。ネロが自分の村の情報を教えると、暗い森にも関わらず、迷いなく歩いていく。しばらく歩いて二人はネロの村に到着した。村の周りは魔物対策に高い柵で覆われており、唯一の入り口の門には門番として槍を持った男が二人立っていた。 「止まって下さい。」 「ご用は何ですか?」  ネロの手を引いたベリーが近づくと門番達は槍を交差させて門を塞いだ。  
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