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するとネロの胸の辺りから謎の紋様が刻まれた黄色い球が飛び出し、ベリーの手に収まる。
「契約成立です。あなたはもう新しい人生を歩み始めました。お母様を救う力が宿っているはずですよ。」
「僕が…お母さんを…?」
「コウ草、必要なのでしょう?」
そう言ってベリーは森を指さした。その指を辿ってネロも森の方を向く。つまりベリーは言外にこう言っているのだ。母を救いたくば夜の森に入ってコウ草を採ってこい、と。何とも無茶苦茶な話だ。だが、何故だかネロはそれができそうな気がしていた。昼間はあれだけ怖かった森が、今は何も感じない。
「…アリス、僕行ってくるよ。」
「え、ダメだよお兄ちゃん! 魔物に殺されちゃうよ!」
「大丈夫、絶対帰ってこれる。そう確信できるんだ。ベリーさん、妹とお母さんをお願いできますか?」
「ええ、もちろんです。」
ベリーに母とアリスを頼むと、ネロはアリスが止める間もなく家を飛び出して行った。
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森を走るネロは不思議な気分だった。昼間はどこから襲ってくるか分からない魔物に怯えてウロチョロ逃げ回っている内に迷子になってしまった森、今自分はより危険な夜にその森を走っているというのに恐怖も何も感じない。自分のこの変わりように驚くばかりだ。
さらに、自分の走る速さにも驚いていた。間違いなく以前のネロよりも速くなっているし、悪路の道をピョンピョンと飛び越えていける辺り、身体能力そのものが上昇しているようだ。
「ブオォォォォッ!!」
途中、二、三メートルはあろうかという巨大な猪の魔物がネロの前に立ちふさがった。マントスジュニアというその魔物は冒険者が四、五人集まって狩るような魔物で、危険度もそれなりに高い。
「はっ!」
だが、ネロはそれを軽く飛び越えた。突進してきたマントスジュニアの額を踏みつけ、ピョンと跳躍して向こう側へ飛び越えた。マントスジュニアは勢いを止められずに木に激突した。並みの冒険者が見ればあんぐりと口を開けるようなことをネロは軽々とやってのけた。
あっという間に森を抜けたネロは渓谷に辿り着いた。ごつごつした岩山がばっくりと大きく断裂して真っ二つに割れている。渓谷に着いたネロはキョロキョロとコウ草を探す。
「あった!」
谷を覗き込んだネロはついにコウ草を見つけた。それは岩の壁から飛び出るように生えていた。
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