第一話

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▼ 「ハァ…ハァ…」  ここは木々が生い茂る薄暗い森。そんな森の中を少年が一人歩いていた。黒い髪の毛で見た目はいたって普通、年齢で言えば7、8才くらいが妥当な小さな男の子だ。魔物が生息し、危険と言われる森を一人で歩くべきではない。 「うぅ…ここどこ…?」  少年はどうやら迷子のようだ。不安そうに身を縮めて歩いてはキョロキョロと辺りを見渡す。しかし、どんなに歩いてもどんなに見渡しても周りにあるのは木ばかり。目印になるようなものはない。俯いて思わず涙目になる少年だが、何かを思い出すとふるふると頭を振って涙を拭う。 「しっかりしなきゃ! 僕がお兄ちゃんなんだ。薬草を持って帰らないと!」  少年は決意を新たにすると、再び森の中を歩き出した。 ▽  あれからひたすら歩き続けた少年だが、決意を新たにしたところで解決策があるというわけではなく、迷ったまま数時間の時が流れた。高かった日が西側に落ち始め、ただでさえ薄暗かった森が一層暗くなる。 「うぅ…ひっく…」  暗くなったことで少年の不安も比例して掻き立てられ、新たにしたはずの決意が崩れてしまった。少年はポロポロ落ちる涙を拭いながら歩く。 暗くなってきたということは少年の身も徐々に危険になってくる。今までも十分危険だったが昼間の内はまだいい方で、森の本番は夜からだ。夜になると数々の獰猛な魔物達が目を覚まし、狩りを始める時間だからだ。それを知っているからこそ少年は不安と恐怖に身を縮め、涙を流すことになる。 「いたっ!」    俯いていた少年は木の根っこに足を引っかけ、どてっと転んでしまった。 「うぅ…うわぁ~んっ!」  転んだ痛みがきっかけになってしまったのか、少年はついに大声で泣き出してしまった。大声で泣きながら歩く少年は、自分の居場所を魔物達に知らせながら歩いているようなもので大変危険だ。普段なら間違いなく少年は無数の魔物達に囲まれ、次の瞬間には喉を噛み切られている。普段ならそうなのだが、何故か今日は少年の周りに魔物が寄ってくる気配はなく、それどころか少年が歩いている辺りの森に魔物の気配がない。これは明らかにおかしいことなのだが、少年は泣く事でいっぱいのため、そのことに疑問を抱く者はいなかった。
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