第一話

7/16

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 ベリーはネロの目の前のテーブルにコトリと料理を置いた。その際にベリーの頭の耳がピコピコと動く。やっぱりあれは動物の耳だとネロは確信した。その耳は猫のものに似ている。 「どうされました?」 「い、いえ!」  ベリーの耳を凝視していたのがバレたようだ。ネロは慌てて視線を目の前の料理に移す。その料理はネロが見る限りスープのようだった。だが、ネロが知っているスープは適当な具材を鍋に入れてただ煮込む、正直あまり美味しいものではなかった。しかし、ネロの目の前で丸い皿から優しい湯気を発するそれは、何故か凄く惹きつけられた。  ネロは銀色に輝くスプーンを手に取るとその優しい黄色の液体をすくって口に運んだ。 「うわ…美味しい…」 「それは何より。」  スープを味わったネロは思わず言葉が口から出た。感じられる深いコクとまろやかな味は、間違いなくネロが今まで食べた料理で一番美味しかった。 「あの、これは何と言う料理なんですか?」 「『コーンポタージュ』です。」 「こーんぽたーじゅ?」  聞き馴染みのない料理の名前にネロは首を傾げた。 「玉ねぎととうもろこしを炒めて鍋で煮込んだスープです。冷えた身体には最適でしょう?」  そう言ってベリーは微笑んだ。コーンポタージュなるものの説明をしてくれたベリーだが、ネロは正直何が何だが分からなかった。『玉ねぎ』と『とうもろこし』、それらはこの魅惑のスープに使われている食材なのだろう。だが、どちらもネロは聞いたことがない。そう思っているとベリーが「あっ」と言って口に手を当てた。 「失礼しました。ポルオニオンとラッシュコーンと言う方が適切でした。」 「えっ!? どっちも高級食材じゃないですか!」  スープの具材にネロは驚いた。ネロも詳しくは知らないがベリーが言った二つの食材は産地が遠い土地で、取り寄せに非常に手間がかかることからかなり高価な食材だ。一流の料理人もめったに扱うことのできない食材で、手にできるのは王の宮廷料理人レベルの料理人だ。少なくともネロのようなただの村の少年が口にできるものではない。 「あ、あのっ…もう食べてしまったんですが…僕お金持ってません…」  ネロは椅子から降りると身を縮め、床に頭がつこうかという程深く頭を下げた。不安からプルプルと震えるネロ、そんなネロを見てベリーはクスクスと笑った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加