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「コウ草…確かやや希少性の高い薬草でしたか。どうしてそれを?」
そんなネロにベリーは尋ねた。
「……実は僕のお母さんが病気になってしまったんです。」
「…ほぅ。」
暗い表情になったネロはベリーにゆっくり事情を話し始めた。
「村のお医者さんに診てもらったら、自然に治るのを待つしかないって言われて…、でもお母さんは元々身体が強くないから中々病気に勝てなくて…。」
「なるほど…それでコウ草を。確かにコウ草には身体の抵抗力を高める効果があります。」
「はい、それを聞いてお母さんの看病を妹に任せて村を飛び出したんですけど、森で迷ってしまって…。ベリーさん、もし持っていたら分けてもらえませんか?」
「申し訳ありませんネロ様。現在当店では在庫がありません。」
ベリーはペコリと頭を下げた。
「そう…ですか…」
ネロはがくりと落ち込んでしまった。
「しかし、そういう事情でしたら冒険者に依頼されたらどうでしょうか?」
ベリーの言う冒険者とはこの世界においていわゆる何でも屋のような職業だ。世界の様々な所に設置されたギルドに所属する冒険者達は、様々な依頼を受けて厄介な魔物と戦ったり、希少な素材を集めたりする。
ネロが欲しがっているコウ草という薬草はレストランのある森を抜けた先にある渓谷にある。間違ってもネロのような子供が辿り着けるような場所ではない。そういうことは冒険者に依頼するのが最適なのだ。
本来なら。
「…いません。」
「?」
「いないんですよ! コウ草を取ってくる冒険者なんて!」
突然ネロが悲痛な叫びを上げた。いきなり叫ばれてベリーは面食らい、ネロは、すみません、と謝った。
ベリーは詳しく話を聞いてみた。ネロによると、今まで村に様々な物資をもたらしてくれていた冒険者達は皆王都のギルドに出払い、日々強い魔物との戦いに明け暮れているらしい。何故そんなことになったのか。それは『勇者』という存在が原因だ。
遡ること二千年前、この世界は『魔王』という存在に脅かされていた。その恐怖の魔王を見事打ち倒したのが勇者だ。各地で仲間を集め、悩みながらも世界を救った勇者、今やその存在は知らない人はいない英雄だ。
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