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私は内包していた。我が身を燃やす灼熱のエネルギーを、尽き果てそうにない無尽蔵かと錯覚する力の迸り、原初の宇宙に近い温度を身の内に、気の遠くなる悠久の時と共に。
暴れ回る裸の水素原子核は、白熱の身の内で混沌のスープと化す。
右に左に、上に下に斜めに駆け巡り。
表層から深層まで、幾度も彷徨い次第にぶつかり合う一つの陽子。
放射されるエネルギー。そう、余剰の力は電磁波となって表層から宇宙空間へと放たれる。
私がここに燃え盛る一つの恒星なのだと証明するかの如く。
虚空としか思えない常闇の空間へ向けて。
透き通る闇の中を真っ直ぐに走り抜けて行く。
私の身の内、裸の水素原子核はヘリウム原子核へ。そこからベリリウム、炭素から窒素、酸素、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素……核融合の力で持って鉄へと世代を重ね成長する。
重みを増す程に表層から深層へと沈みつつ。
それと共に私の身は老いて少しばかり小さくなる。
身の内に抱く鉄が増える程に、自らの重力に囚われ押し潰されて。
だが、やがて私は華々しい超新星爆発を起こすのだ。
この命の終焉間近、急速に膨れ上がり、これ以上は進まなかったであろう鉄よりも重い元素を創りながら周囲の虚空へ広がり巨大なガス雲と化す。
星間にばら蒔かれる私の身を構成していた小さな元素達は、冷えた宇宙空間と自らの重みに因って更なる成長を続けて行くだろう。
それはより複雑な分子へと。一酸化炭素、水素分子、二酸化炭素と。君達にも良く知られ利用されているものへ。
君達自身の中にも多く含まれるものへとだ。
やがて再び生まれる恒星と、より複雑な原子、分子を含む惑星は君達の揺り籠となるだろう。
人よ、命よ。生きていると言う事実を謳歌し、その身の内にある大きな心で全てのものを包み込め。遥かな歳月さえも、この広大な宇宙の全てさえをも。
そうして、その奇跡である命を繋ぎ行け。
君達はその矮小だと言う身の内に、何よりも大きな恒星の欠片を宿しているのだから。
誇れ、空を見上げ。
自分達は素晴らしいのだと。
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