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「珍しいことじゃないだろ? 両刀使いは極道の〝嗜み〟みたいなもんだ。ムショで覚えてくる奴も多いしな。ま、後藤田ほど魅力のある男なら、性別関係なくモテるんだろ。東日本を牛耳るヤクザの組長で、見た目も気前もよく、ブルドーザーのように大金を稼いでくる。芸術やスポーツにも造詣があって、おまけに高学歴ときたもんだ。俺だって商売女だったら、一度でいいから抱かれてみたいと思うかもな」
大谷が下卑た笑い声を上げる。
「成世はヤクザなのか?」
「さあな。盃をもらってるかどうかは知らない。後藤田が経営してるフロント企業の幾つかを任されてるらしい。とにかく数字に強いんだと」
「数字?」
「株だよ株。他のことは何もできないが株に関しては天才的な才能があるらしい。それともう一つ」
大谷は肩の関節をグキッと鳴らした。気分を変えたい時の大谷の癖だった。
「あいつがヤバいのは、ここ。この中身だ」
大谷は頭を指す仕草をした。
「中身がヤバイって?」
「痛みを感じないらしい」
どういうことだろう。言っている意味が分からない。比喩か何かだろうか。
「先天性無痛症? なんかそういう名前の病気があって、生まれながらにして痛みを全く感じないんだと。痛みはもちろん熱さや冷たさも感じないらしい。なんか信じられないだろ? けどな、人間、痛みを感じないからこそできることがある。なんだと思う?」
「…………」
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