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「拷問だよ、拷問。あの綺麗な顔をしたお嬢ちゃんは拷問の名手なんだ。どんなに厳ついヤクザでも成世の拷問に掛かると十分と持たないらしい。自白剤なんか使わずに百パーセントの確率で吐かせることができるんだと。全く、末恐ろしいお嬢ちゃんだ。綺麗な顔してんのに信じられないだろ?」
「……あ、ああ」
乃木は再び背筋に寒いものを覚えた。
「ホント、ヤクザは俺たちと同じ人間に見えて、どっか一本ネジが飛んでる。いくら警察が叩いても、同じ趣向を持った人間がどこからともなく湧いて集まって組織を作る。法整備をどれだけしても、こればっかりはイタチごっこだろうな。あのお嬢ちゃんだって、ヤクザじゃないとしてもそれと同じ種類の人間だ。俺たちとは根本的に違うんだよ。ありゃ本物の悪魔だな」
乃木は大谷の言葉をぼんやりと聞いていた。
――あいつは笑ってた。
天使のように美しい顔で。
その微笑は慈悲深いマリア像のようだった。
乃木の頭の中で、男の顔が残像のように揺れて……消えた。
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