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休みの日は朝から大体、酒を飲んでいる。アル中ではないが、自分がギリギリの所にいるのを乃木は自覚していた。カーテンを引いたリビングは薄暗く、2LDKの一人暮らしの部屋はアルコールと埃の匂いに満ちていた。
ソファーに体を預け、グラスを傾けながらぼんやりと天井を眺める。
ある日を境に乃木の酒量は増えた。その原因は分かっていた。
――全てはあの事件が……元凶だ。
思い出したくないシーンがフラッシュバックしそうになり、乃木は自分の舌の先を噛んだ。
乃木は元々、刑事になるつもりはなかった。子どもの頃から役者になるのが夢で、大学時代は演劇に夢中だった。父親が中国人で一般家庭とは異なる自由な環境もあったのだろう。留年こそしなかったものの、講義もそこそこに青春の全てを舞台に注ぎ込んだ。学内大手の演劇集団に所属し、自主製作映画の主演にも抜擢されたこともあった。一時は本気で役者になれると思ったこともあったほどだ。
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