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それが叶わぬ夢だと認識したのは、ある商業映画にエキストラとして参加した時だった。自分と同じ歳の男が端役を演じていた。目立たない地味な役だったが、彼には圧倒的な存在感があった。見た目のよさや声の美しさ、演技の上手さだけではない、何か特別な説得力のようなものが備わっていた。そして、その言葉では表現できない説得力は、プロの役者なら誰もが持っている当たり前の能力だった。言葉を変えればオーラのようなものだ。
努力では手に入れられない特別なもの。
――才能。
乃木にはそれが欠けていた。
才能がなければ何もできない。自分には才能もオーラもない。
役者を目指し、バイトに明け暮れ、成功した仲間を憎みながら年を重ねる。自分の才能は理解されないのだと嘆きながら、夢を諦め切れずにのた打ち回る。そんな男たちを目の当たりにしていた乃木は、大学三年の冬、役者になることをきっぱり諦めた。
――俺は少し器用で目立つ容姿をしていただけだ。華がなければプロにはなれない。
そう思うことで己を慰め、夢を諦める罪悪感を胸中から綺麗さっぱり消し去った。
乃木は元々、刑事もののドラマや映画が好きだった。役者になろうと思ったのも渋い所轄の刑事がはまり役だった俳優の影響が大きかった。ノンキャリの巡査部長でありながら事件を次々と解決していく役者の姿に憧れ、いつしか刑事になるのも悪くないと思うようになっていた。
青臭くはあるが貫きたい正義もあった。それと同時に、警察組織という階級社会で勝ち上がりたい気持ちもあった。
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