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乃木は柔道が得意で語学が堪能だったこともあり、入庁後は比較的順調に出世の道を歩んだ。警察学校を出た後、地域交番勤務、警邏係・留置管理課を経て、所轄の刑事課捜査一係へ進み、警視庁の刑事部捜査一課に抜かれた。初任科の成績がトップで所轄での検挙数も多く、刑事を希望する熱意も認められたため、捜査専科講習をあっさり受けられたことが大きかった。
その後、刑事部から組織犯罪対策部に移り、三十歳の時に公安の捜査官に抜擢された。秘匿性の高い、いわゆる外事警察というものだ。
外事第二課――主に東アジア、特に中国や北朝鮮のスパイに関する捜査・情報収集を行う部署だったが、そこで中国人スパイの獲得と運営を担当した。
十一年。
十年とプラス一年。
公安の捜査官として職務を全うした。いや、全うしたはずだった。
だが、プラス一年目の冬、あの事件が起こった。
それは乃木の人生を根底から変えてしまうほどの忌まわしい事件だった。
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