【2】その指が指す先に

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 その医院は新宿歌舞伎町二丁目の、区役所通りを一本奥に入った所にある雑居ビルの中にあった。特に看板などは出ていない。乃木と大谷はエレベーターに乗って医院のある四階へ向かった。  扉が開いた瞬間、背の高い男が乗り込んできた。すれ違いざまに顔を覗く。綺麗な顔をした男だったが独特の体臭があった。 「ホストか。職務質問(バンカケ)するか」  乃木が尋ねると大谷は首を振った。 「あの男、確か有名なアイドルだ。……『ラクター』だったか。A事務所の人気グループの一人だな」 「だったら後から追えるな。とりあえず中に入ろう」  ぱっと見、整骨院のように見えるドアを開けて中に入る。受付には誰もおらず、待合室のソファーにも患者の姿はなかった。乃木はとっ散らかったスリッパに足を入れて診察室へ向かった。 「おい、ヤブ。いるんだろ?」  奥に向かって声を掛ける。男の名前は小藪(こやぶ)と言った。名前がヤブだからこんな医者になるしかなかったと過去に小藪は嘯いていた。 「なんだ、ハムちゃんか」 「悪いな、俺はもう公安じゃないんだ」 「はーん。なんかしくじったんだな」 「知ってるだろ。からかうなよ」
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