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「大谷。とりあえず、五課に連絡だ。尿検査は出ないだろうが、毛髪検査は引っ掛かるはずだ。任意での検査は拒否するに決まってる。頭をハゲにされて逃げられる前に、身体捜査令状を請求するぞ」
乃木がそう告げると、大谷はスマホを操作しながら外へ出た。乃木は小藪に詰め寄った。
「ヤク中の多い、このご時世でおまえんとこは相当儲かってそうだな。顧客はヤクザや中国人マフィアだけじゃなく、芸能人や財界人、政治家までいるのか」
「さあねぇ。俺は心優しき赤ひげドクターなんだ。患者の選り好みは一切しない。当然、社会的立場で差別したりもしない。あんたら警察と違って俺は博愛主義者なんだよ。分かる?」
小藪のもっともらしい言い訳に腹が立つ。
「元公安のハムちゃんだって散々ウチを利用したくせに、よく言うよ」
それを言われると立つ瀬がなかった。確かに乃木は公安時代、正規の病院へ連れて行けなかった協力者をここへ運び込んだことが何度もあった。
「必要悪だよ、ハムちゃん。ヤクザも俺もあんたもだ。……おっと、お客さんだ」
小藪が受付を覗いた。妙な呻き声と気配がして、乃木もそちらを振り返った。左手にタオルを巻いている男が何か呟きながら体を震わせている。よく見るとそのタオルが真っ赤に染まっていた。
「あらら、久しぶりのエンコ詰めか。全く面倒だな」
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