【2】その指が指す先に

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「大谷。とりあえず、五課に連絡だ。尿検査は出ないだろうが、毛髪検査は引っ掛かるはずだ。任意での検査は拒否するに決まってる。頭をハゲにされて逃げられる前に、身体捜査令状を請求するぞ」  乃木がそう告げると、大谷はスマホを操作しながら外へ出た。乃木は小藪に詰め寄った。 「ヤク中の多い、このご時世でおまえんとこは相当儲かってそうだな。顧客はヤクザや中国人マフィアだけじゃなく、芸能人や財界人、政治家までいるのか」 「さあねぇ。俺は心優しき赤ひげドクターなんだ。患者の選り好みは一切しない。当然、社会的立場で差別したりもしない。あんたら警察と違って俺は博愛主義者なんだよ。分かる?」  小藪のもっともらしい言い訳に腹が立つ。 「元公安(、、、)のハムちゃんだって散々ウチを利用したくせに、よく言うよ」  それを言われると立つ瀬がなかった。確かに乃木は公安時代、正規の病院へ連れて行けなかった協力者(エス)をここへ運び込んだことが何度もあった。 「必要悪だよ、ハムちゃん。ヤクザも俺もあんたもだ。……おっと、お客さんだ」  小藪が受付を覗いた。妙な呻き声と気配がして、乃木もそちらを振り返った。左手にタオルを巻いている男が何か呟きながら体を震わせている。よく見るとそのタオルが真っ赤に染まっていた。 「あらら、久しぶりのエンコ詰めか。全く面倒だな」
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