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「これナルちゃんが切ったの? 綺麗だね。芸術的センスを感じるよ。接合は断端部が挫滅してないから楽にいけそうだ。トリミングの必要もない。まずは骨を固定して腱を縫合するね。その後、手術用顕微鏡入れて神経と血管をササッといくから。あ、輸血はいいよ。ナルちゃんがちゃんと止めててくれたみたいだから。とりあえず局麻してレントゲン撮っちゃおう。ちょっと着替えてくるから待っててね」
急にテンションの高くなった小藪は麻酔の処置を済ませると部屋の奥へ消えた。指を詰めたヤクザは嗚咽を洩らしながらまだ痛いと訴えている。慰めの意味も込めて乃木は男に声を掛けた。
「悪いことは言わない。こんな所で指をくっつけるのは不可能だ。大人しく縫うだけの処置に留めておいた方がいい」
「そ、そんな……くっつくって聞いたから俺は……」
男は動物病院の処置台の上で怯えるチワワのような表情をしている。
「成世さん、こ、こっ、これは、どういうことですか?」
「気にするな。その男は部外者だ」
「で、でも――」
「こんな小さな病院で血管と神経を繋げるわけがない。予後を考えたら切断面を縫う方がいい。それだって技術のいることだ。大人しく梅コースにしろ」
「う、うめっ……うっ……」
男は情けない泣き声を上げた。
「失礼だけど……あんた刑事さん?」
「そうだ」
不意に成世が声を掛けてきた。成世は今日も仕立てのいいスリーピースに身を包み、鉱物の標本のように清潔で整った身なりをしている。そのスーツの袖から意匠の凝った腕時計が覗いていた。見たことのないデザイン――一目で数量限定の特注品だと分かる。金回りはいいようだ。
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