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乃木史朗はその日、三回目の溜息をついた。
車のフロントガラスが白く曇りはじめる。乃木が同僚の刑事である大谷と銀座の路上で張り込みを開始してから、すでに二時間が経過していた。
四十を過ぎた体に冬の寒さが沁みる。目立つ行動ができないため、車のエンジンを掛けることはもちろん、煙草の一本さえも吸えない。乃木は無意識のうちに上着のポケットを探っていたことに気づき、手を止めた。心の中で舌打ちをする。
「これ、食うか?」
気を利かせた大谷がスーツのポケットから何か取り出した。ミントタブレットだ。
「悪いな」
断るわけにもいかず、手に取って口の中へ放り投げる。歯で乱暴に砕くとミントの香りが鼻に抜けた。寒い。これじゃ腹ん中まで冬だ。
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