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「裏か。追い掛けるのはまずいな。見える位置まで移動させる」
「了解」
乃木はハンドルを切った。同時に後藤田のレクサスを尾行している不審車がないかチェックする。
ビルの裏口がギリギリ見える所に車を止める。ほどなくして裏口からスーツを着た男がぞろぞろと出てきた。数人の男が黒い傘を差す。後藤田と幹部連中の姿を隠すためだ。その傘の隙間から後藤田の顔がチラリと見えた。
――あれが後藤田組の組長、後藤田篤宗か。
これだけ近くで見るのは初めてだった。後藤田は確か五十代も後半のはずだ。皮膚に張りがないとはいえ目つきは鋭く、若さと獰猛さに溢れている。背は高く、スーツの上からでも分かる程度に体が鍛えられていた。近くに寄れば獣の匂いがしそうなほど雄としての魅力に満ちているが、物腰は静かで落ち着いている。知性と野性のバランスが絶妙な色男だ。乃木はその姿を見て、なるほどなと思った。
「だが……どいつもこいつもヤクザっぽくないな。外資系のバンカーか商社マンみたいだ」
乃木が呟くと、大谷が「ああ」と分かったような返事をした。
「乃木が組対にいたのは結構、前だったもんな。情報はあっても、リアルでマルBを見るのは久しぶりか?」
「そうだな」
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