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乃木が組織犯罪対策部にいたのは十年以上前の話だ。乃木はこの間まで警視庁公安部に所属していた。外事第二課で外事警察の捜査官として捜査にあたっていたが事情があって組対に戻っていた。
「組対の捜査員の方がよっぽどヤクザに見えるな」
「確かに」
大谷は面白そうに笑った。第四課の捜査員の中には、未だにスキンヘッドやパンチパーマが組対のドレスコードだと思っている奴が多い。当然、態度も口もヤクザより悪い。
「桜の代紋の方がよっぽど時代遅れだな。知ってるか? 後藤田はあれでもスタンフォード大を出てるんだぜ。ヤクザなのにインテリなんだよ」
スタンフォード大学といえば世界ランキング十位に入る名門校だ。着ているスーツの生地も出た大学も乃木の方がずっと下だ。リアルな格差に力が抜ける。
後藤田はあっという間にレクサスに乗り込むと、その場を去った。幹部数名もそれに続く。スーツを着た男たちは素早く傘を畳み、何事もなかったかのようにビルの中へと消えた。周囲に誰もいなくなった。その動きはアメフトのフォーメーションのように完璧だった。
「とりあえず、敵対してる菱崎組の襲撃はなかったな。尾行してる様子もない」
「そうだな」
乃木が周囲を確認していると大谷が「おや」と声を上げた。
「……珍しいな。お嬢ちゃんだ」
「お嬢ちゃん?」
「あれだよ、あれ」
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