森の道標

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「もしもし、S谷さん!着いた!着きましたよ!ええと・・・」 ぎょっとしたのはその時です。  S谷がのんびりソフトクリームを舐めながら、売店のベンチでお客さん方と話をしているじゃないですか。  そんな馬鹿な。じゃあ、これは一体誰―。 「・・・あのう、もしもし」 恐る恐る耳にスピーカーを当て直して囁きます。  相変わらずスピーカーの中からは、ピーとかガ-とか耳障りな音が響いてきます。それに混じってしかし確かに小さく人の声。  耳に全神経を集中させると、今度は荒い息遣いが聞こえました。  S谷がこちらに気付いたのでしょう。お客さんと並んでにこやかに手を振っています。  もう一度・・・、 「あ、あのう。もしもし・・・」 返答は小さな声でしたが、今度ははっきりと聞こえました。 「え、ここって一本道ですよね・・・。最初は右側でいいんですね」 私は慌てて電話を切りました。聞き違え様のない私自身の声でした。  その日はそこで無事に本隊に合流し、着替えをして美味しくソフトクリームを頂いて終わりです。  リタイアの男性は大事無く、帰りの車中でも缶ビールを数本飲んで出来上がっておりました。予定通りの時刻に出発地まで帰着してツアーは解散。  但し、電話は何度掛けても間違いなくS谷の携帯電話を鳴らしました。  またこの季節がやってきましたね。私も折を見て、今度はお客さんとしてツアーに参加してみたいと思っています。  本日は誠に有難うございました。
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