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電車はゴトゴト音をたてて進んでいく。
「もう後1駅ほどで着きますね」
そう呟くと佐藤さんはまた語り始めた。
「そう毎日いたんです。雨の日にはさすがにいませんでした。最近じゃあ立ち上がって部屋に戻るところも見たことがあるんです」
私はその言葉に若干の違和感を感じていた。
「1ヶ月前ぐらいかな。家の外に出る彼女を頻繁に見るようになったのは。駅に向かっているようでした」
「それからすぐ事件の報道があって彼女が亡くなったことを知ったんです。」
やはり腑に落ちない。私は何か勘違いしているんじゃないかと思い始めた。
「ほら見えてきましたよ」
急な登場に私の中で緊張が走った。赤い屋根・白い壁・広いバルコニー白いテーブル・白いイス・無人の部屋・一瞬が平らに伸ばされてスローで再生される。事件現場の綺麗なことがそら恐ろしく感じられる。
ゴウッと言う風きり音とともにあっと言う間に過ぎ去っていった。
気がつくと私は汗を一筋かいていた。
「あの家にはもう誰もいませんでしたよ」
佐藤さんはポツリと呟いた・・・・・・・・。
私は目的地であるこの駅に降りたち、その場に立ち尽くした。
佐藤さんの会社は次の駅らしい。電車が発車に向けて待機している。
ただ佐藤さんのさっきの話。 あれはどう言う意味なのだろうか。私は考え始めたのだ。
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