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次は僕達、博士課程学生。僕達は、今までの彼らとは異なり、総代への授与ではなく、全員、この場で学位記が授与されるんだ。博士という最高学位ということもあってか、博士の正装である、「フクロウ」のようなアカデミックガウンを身にまとい、頭には、天井が正方形で、その一辺から何かがぶら下がった角帽をかぶっているんだ。そして、一人一人が壇上に上がり、大学総長から学位記が授与される。アカデミックガウン、僕が憧れていた、そして、知識の象徴であるフクロウのような格好で、そして、誰もが想像する、ハリウッド映画の卒業式のような雰囲気を僕は感じる。
僕達は壇上に上がっても、結婚のプロポーズや、大学の愚痴や、政治に関する思想を大声で宣言したりはしない。この時に限っては、厳粛なムードが堂内を包み、「そうしてはならない」という強い電波のようなものが、各自の頭の中に直接、届き、それが「体を支配している」といったほうが適切だ。むしろ、僕は、この大学に対しては、何ら未練もなかったから、ここで何も言うことは何もなかった。その間、学部生や修士課程学生は、僕達を、憧れの眼差しで祝福したり、研究オタクの成れの果て、という卑下で見ていたりするんだろうかね。
壇上から、群衆を見下ろすと、その学位記の授与を、憧れと、不安の眼差しで見ている三年前の僕が、修士課程学生の群衆の中に潜んでいたような気がした。
僕達に学位記が行き渡ると、オーケストラが大学の寮歌『都ぞ弥生』を演奏する。この大学には、校歌もあるけれども、不思議なことに、その存在を知るものは少ないんだ。僕もその一人なんだ。校歌なんて今まで聴いたこともないんだ。学生や教員のなかには、寮歌が校歌だと思っている人も多いんじゃないのかなと思うんだ。寮歌の前奏の後、出席者全員による合唱がホールの中に響き渡る。中には、感極まって泣き出す者や、円陣を組んで歌っている者、それぞれが、別々の思い入れを持って、歌っている。一種独特な雰囲気だね。
寮歌が歌い終わると、卒業式は閉会し、ホールから、合唱の時の調和から一転し、真の学士・修士・博士となって、外へバラバラに散っていく。外は氷点下、寒さを凌ぐのに好都合な、アカデミックガウンを身にまとい、フクロウたちはそれぞれの新たなる巣に向かって、方々に飛び立ったんだ。
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