2. 博士課程1年・4月・中旬

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 僕が、こう言い終わると同時に、ベルが三回鳴った。キャピタル大学、メインホール。会場の座席は全て埋まっている。立ち見もいることから、二百人以上は居たんじゃないのかな。会場は、プロジェクターでスライドが投影されているため、薄暗い。壇上の僕のMacBookの林檎マークが、青白く光っている。青白く光るリンゴのマーク、僕はある種のステータスを感じながらプレゼンテーションしていたんだ。僕は、プレゼンテーションの間、一切MacBookのキーには指を触れていなかったし、その画面を前にして立ってもいなかった。その代わりに、付属のリモコンを手にしながらスライドを切り替え、そして、大きなスクリーンの前で、プレゼンテーションをした。一回目のベルは、開始から十分でベルが一回鳴り、二回目は十二分では二回鳴る。三回目の十五分でベルが三回鳴り、発表終了となるが、僕には、一回目と二回目のベルは必要ないんだ。あらかじめ、この内容を十五分で終了するように、スライドを切り替えるタイミングや、発言・動作などのイメージトレーニングを幾度も重ねたからだ。いわば、『音楽のないミュージカル』みたいなもので、体内時計を音楽に、プレゼンテーションというミュージカルを演じている、それが、僕の学会発表のやり方なんだ。  質疑応答の時間は、五分。大概、大御所がマイクを握る。それについても、織り込み済みだ。淡々と、そして論理的な回答を返す。そして、そんな質問が来ることを想定して、プレゼンテーションを設計している。それらの質問に対する、回答のスライドも、事前に作成してあるから、回答に苦しむことはないんだよ。 僕のプレゼンテーションが終了し、休憩時間となった。休憩時間には、さきほどの質疑時間で、質問しそびれた研究者達が、発表者を囲む。僕も、何人かに囲まれ、彼らに対して、適切な質問の答えを渡したとともに、名刺を交換したんだ。その人の集まりが途切れたとき、 「お疲れさま。これで、博士に向けた論文、一本目はクリアだ」
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