魔女の処刑台

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 彼女が時間を巻き戻そうとしたのは――愛した人間の男を取り戻すためだったの。  知りたくなかった真実に、あたしは激怒したわ。彼女も人間を憎んでいた、それは間違いない。でもその理由は、愛する男を奪った人間達が許せなかったからなのよ。とてもとても、人間を好きだったからこそ――裏切られたと感じたのだと、あたしはそれを知ってしまったの。  ふざけるな、と思ったわ。じゃああたしは、あたしは今日まで何のために貴女の研究を手伝ってきたのって。あたしの理想は何処に行けばいいのって。 「可哀想な子」  その時――彼女は初めて、あたしを心底哀れんだ眼で見たのよ。 「愛を知らない、知ることのできない…悪意から生まれた魔女の卵。私の愛する人は確かに、私の愛によって処刑台に送られた。それはとても悲しいこと。それでも…愛がない虚しさに比べたら、私の苦しみはどれほど真っ当で、幸福なものなのかしら。貴女にはきっと、永遠にその気持ちはわからないのですね」  その後――正直ね、そのあとのこと、よく覚えてないのよ。  確かなのはあたしが激怒して彼女にありったけの魔法をぶつけて殺そうとして――結果あたしが返り討ちになって死んだってことだけよ。  それが、あたしが死んだ一番最初の物語。  あたしが死んだ、一番最初の理由。  気がついた時、あたしは焼け野原に一人ぽつんと立っていたわ。弾け飛んだ服を見て、ああ自分は一度死んだんだなってことだけを理解したの。同時に、思い知ったのよ。  あたしは最初から、誰かに頼るべきなんかじゃなかったってこと。  あたしは一人で、魔女の理想郷を作り上げなければならなかったということよ。  もうパートナーなんて要らない。必要ない。あたしの周りにあるものはあたしを飾り立ててくれる家具と、玩具と、家畜だけで充分だっていうことをね。  そうして、あたしは独りになり、真の魔女として覚せいしたの。  災禍の魔女、アルルネシアが本当の意味で生まれたのは――きっとこの日だったんでしょうね。
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