症例 No.X

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 私は生前、どこにでもいるサラリーマンをやらせていただいておりました。  本当に、心の底から、どこにでもいる普通のサラリーマンだったと自負しております。朝の通勤ラッシュに揉まれ会社へ行き、仕事をし、帰宅ラッシュに揉まれ家路へ着く。そんな生活を20年ほどですかね、続けておりました。  趣味、というほどのものは特になく、休日することといえば家の付近を散歩したり、たまに旧来の友人と飲みに出かける、その程度のものでした。  そんな私も10年程前に、美人とまではいきませんが器量の良い伴侶も得ることができまして、さらに子宝にも恵まれるなど順風満帆とまではいかずともそこまで不満のない毎日を送らせていただいておりました。  すみません、脱線しました。  そんな私ですがついこの間――いや、いつ死んだか分からないのですが、一念発起しまして。「家族のために事業を立ち上げよう」と。いわゆる「脱サラ」ですね。  幸いにも貯金もある程度ありましたし、頼りになる友人もいましたし最初は苦労するかもしれませんが、人生にはそういったものも必要だろう、と思いまして。ガラにもないですよね。ハハハ。  さて、そのことを妻にどう切り出そう 、子供もまだまだ小さいし、絶対に反対される。そう思いながら、駅から家まで歩いていた時でした。  遠くの方から光がやってきて――  そこまででした。あれは、トラックか何かのライトだったんでしょうかね――?  あぁ、すみません長々と喋ってしまいまして。しかし、死後の世界って暗いものでございますねぇ。もしかしたら、あのときの光で失明しちゃったのかもしれないですね。失明している幽霊ってのも格好がつきませんが・・・・・・いや、幽霊に格好つけるもなにもないですね。忘れてください。
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