出奔

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 ぼくはもう、今の生活に堪えられない。毎日毎日、乗りたくもない満員の電車に乗り、行きたくもない職場に行き、やりたくもない仕事をやり、下げたくもない頭を下げる生活に。限界だ。こんなことをするために、ぼくはこの世に生まれてきたんじゃない。  お父さん、お母さん。先日、ぼくが二人に「仕事を辞めようと思う」と言ったら、二人はぼくのことを強く諫めたよね。  「お前だけじゃない。みんなだって仕事は辛いと思っている。それでも、『生活のため』と割り切って、日々働いているんだ」  だとか、  「会社を辞めて、あなたに何が出来るの?あなたは今、辛い部分にばかり目が向くから、『辞めてやろう』と考えてしまうのです。今辞めたら、今度はきっと、『あの頃はもっとお金を貰えていたなぁ』だとか、『あんな短い労働時間で、恵まれていたんだなぁ』と後悔するに決まってます」  だとか。  うん、そうだよね。きっと、反対するに違いないと、心の中では予め分かっていました。「辞める」と言ったって、実際に辞めた後の具体的なプランがあるわけでもない。何か当てがあるわけでもない。そんな状態で、二人が手放しで賛成してくれると思うほど、ぼくもバカではありません。だから、反対されたこと自体について、ぼくは、ほとんどショックを受けませんでした。  でも、ぼくにはどうしても納得出来ないことがあります。それは、二人の、反対したときの言葉です。
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