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着いた先は、橋の下と
人家の下に空いた窪みであった。
「雨の日などは窪みじゃ」
切なくある。
「榊、俺等と里へ行くぞ」
蓬が窪みを見ながら言う。
「里とは?」
「狐の里じゃ。俺等の家じゃ」
「花魁はおろうか?」
「おらぬ」
榊は、ふい と顔を背けた。
「ならば行かぬ。儂は花魁になる故」
憧れておるのじゃのう。可愛いものだ。
「何をしてなるのか知っておるのか?」
羊歯がムッとして聞く。
「客と寝るのじゃ。
儂は夜、こそりと柵に入り覗いたことがある。
儂等 狐や狸は、尾にて人を騙すが
花魁は、美しさや床の技、手練手管で騙す故
尾要らん であると... 」
「もう良い。
しかし、禿にもなっておらぬではないか」
「身上の分からぬ者は入れられぬ と言われた」
それならなれぬであろうよ。
皆、無言じゃ。
「いつか、誰それの娘などと証明 出来れば良い!
遠くに嫁いだ者の親などを幻惑し... 」
頑張るのう。
「あのような華美な着物を
着たいだけではないのか?」
「むっ... 」
蓬の言葉に詰まっておる。
図星のようじゃ。
「ならば、相応の歳となったら
着れば良かろう。
玄翁には、着物などを沢山お持ちになっておる
柘榴様という 蛇神様の知り合いがおる。
時に、着物や帯を賜っておる」
「本当か?!」
「うむ。玄翁は、賜った着物などを
術の上達や、妖狐の位が上がるなどの祝いに
里の女等に渡しておる。
柘榴様が “女は美しくあれ” と仰る故」
「だが... 」
踏ん切りが付かぬようだのう。
「ならば、俺等の旅の間 共におってみぬか?
後何日かおる。それで決めたら良かろう」
榊は 顔を上げて頷いた。
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