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旅籠では、部屋に結界などを張り
人に襖を開けられぬようにして
皆、狐となった。榊は まだ童じゃ。
「本当に犬ではないのか?!」
俺を見て、切れ長の眼を丸くする。
「狐じゃ。銀狐」
「むう... 匂いは狐であるが... 」
遠巻きにしておる。
「お前も化け解いてみよ」
羊歯に言われておるが、もじもじとしておる。
「儂は、毛色にて 指など差されたことがある」
「里には、俺のような黒も 白狐もおる」
榊は「ふむ」と、化けを解いた。
黄白の毛色の美しき狐であった。
だが、どういった訳か 仔狐じゃ。
七つであるのにのう。
「儂は、ゆっくりしか成長せぬのじゃ。
人の子並みよ。
生まれし時に死にかけていたそうじゃ。
だが生きた。それで、名が “榊” なのじゃ」
榊とは、神事に用いられる植物で
神と人の境にあるもの、“境木” であるようじゃ。
何か恥ずかしそうであるが
「成長するのであれば、問題あるまい。
名も良い。清くある」と 羊歯が言うと
「ふむ」と 嬉しそうにした。
布団などに身を伸ばして転がったが
榊は「柔らかくある」と、寝にくそうじゃ。
疲れもあり、蓬も羊歯も寝ておる。
「俺も最初は落ち着かぬであったが
すぐ慣れる故。里でも布団じゃ」
「ふむ... 」
しばらくすると、俺の背に
自分の背を付けてきた。
また しばらくすると、規則正しい呼吸が伝わる。
童であるのう。可愛いものよ。
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