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******** 旅籠(はたご)では、部屋に結界などを張り 人に襖を開けられぬようにして 皆、狐となった。榊は まだ童じゃ。 「本当に犬ではないのか?!」 俺を見て、切れ長の眼を丸くする。 「狐じゃ。銀狐」 「むう... 匂いは狐であるが... 」 遠巻きにしておる。 「お前も化け解いてみよ」 羊歯に言われておるが、もじもじとしておる。 「儂は、毛色にて 指など差されたことがある」 「里には、俺のような黒も 白狐もおる」 榊は「ふむ」と、化けを解いた。 黄白の毛色の美しき狐であった。 だが、どういった訳か 仔狐じゃ。 七つであるのにのう。 「儂は、ゆっくりしか成長せぬのじゃ。 人の子並みよ。 生まれし時に死にかけていたそうじゃ。 だが生きた。それで、名が “榊” なのじゃ」 榊とは、神事に用いられる植物で 神と人の境にあるもの、“境木” であるようじゃ。 何か恥ずかしそうであるが 「成長するのであれば、問題あるまい。 名も良い。清くある」と 羊歯が言うと 「ふむ」と 嬉しそうにした。 布団などに身を伸ばして転がったが 榊は「柔らかくある」と、寝にくそうじゃ。 疲れもあり、蓬も羊歯も寝ておる。 「俺も最初は落ち着かぬであったが すぐ慣れる故。里でも布団じゃ」 「ふむ... 」 しばらくすると、俺の背に 自分の背を付けてきた。 また しばらくすると、規則正しい呼吸が伝わる。 童であるのう。可愛いものよ。
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