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「そこ! 触るんじゃあないよっ!」 番台の女将が、指差して怒鳴っておる。 男が、若い女に手を伸ばしたものらしい。 良い女将じゃ。 「湯屋など、初めて来る」 「俺もじゃ」 蓬と羊歯は、どこぞで経験があるようだ。 「湯が熱くあるのう」 「うむ。肌が真っ赤じゃ。上がろう」 湯は かなり熱い。垢などは浮くであろうが 入る時など びりびりした。長くも浸かれぬ。 皆 真っ赤じゃ。 今でいう石鹸代わりの よう分からぬ物で身体を擦り、掛け湯で流す。うむ、さっぱりとはした。 「上がって水でも飲むかのう」と 着替えに行くと、蓬と羊歯がそわそわしておる。 「俺等は、休憩場に行って来る故」 「茶でも飲んでおれ」 幾らか銭をもろうたが、何か納得はいかぬ。 二階の休憩場には、湯女(ゆな)なる者等がおり そういった すっきりをするものらしい故。 「蓬と羊歯は、何をしに上がったのじゃ?」 「なんでもない。茶屋へ行こう」 俺は子守りじゃ。 榊は、しばらく 二人を気にしておったが 「おお! 冷水(ひやみず)売りじゃ!」と 指を差す。 買うてみると、冷えた砂糖水に 白玉が幾つか浮いておるものであった。 うむ、旨い。 「共に食すと、なにか余計に甘くある」 「うむ。俺も元は独りであった故」 榊は、俺を じっと見るが 「もう 一杯 食すか?」と、また 冷たく甘い水に浮く 白玉を共に食し 「里では、西瓜なども作っておる」と 暫し里の話をする。 「ふむ。楽しみにある。だが... 」 「何じゃ?」 「お前は里でも、儂とおろうか?」 不安であるのか。 「おる。独りにせぬ故。 修行などはするが、お前もすると良い」 「ふむ」 笑うておる。 俺は、このように 菊を見守りたくあった。
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