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すっかり(なご)うなっておるのう... この半分程の予定であったのに。 俺は割かし、語る者であったようだ。 だが もう謝るまい。くどくなる故。 しかし 気にはなるのだ。 榊は、人程の速度で成長した。 『このまま玄翁のように 爺になろうか?』と 気にしておったが、俺と同じ見掛けの歳頃で 成長は止まったようじゃ。 どちらにしろ 爺にはなれぬが。 このところ変わったことと言えば 藤が四の山の山神を退いたくらいか。 しかし それももう、百年程前か。 今は齢二百程。俺は三百八十程。 術も めきめきと成長し、狐火、結界張り、幻惑 と 出来ることが増え、今は神隠しに取り組んでおる。 夜は。 「浅黄」 俺は、二度目の頭蓋を被って 空いた襖を振り返る。人化けした頭に頭蓋じゃ。 榊は 今日も、赤襦袢姿じゃ。 「どうであろう?」 美しくなったものよ。妖艶ですらある。 だが俺は、眼を閉じれた。 蓬に肌守りを貰うた故。 「ならぬ」 「ぬうう... 」 昼は、色香の修行をしておる。誘惑の術じゃ。 狐は 人の男の精を受け、宝珠を磨く故。 修行によっても磨かれるが、時間が掛かる。 男であっても、女に化け 精を受ける という。 俺には無理じゃ。よって再び、頭蓋を被る。 榊は『尾を割る』と張り切っておる。 最近 玄翁が四つ尾となり、蓬も羊歯も割れた故。 俺は大して気にならぬ。慶空も割れておらぬ。 武より術の者の方が、割れるものであるらしい。 ただ、山や山道で人に会うた際は 耳を隠すのが面倒にある。 人等が戦没者の弔いや、祈りなどのために 山頂付近から 楠の広場辺りに 祠や石仏などを置いた。 また不穏な世になった故 他の山神の元に 使いに出るのは 大抵、俺か 蓬か羊歯じゃ。 今夜も北斗七星などを仰ぎに 山頂に参るかと 腰を上げると、榊は まだ睨んでおった。 「何じゃ?」 「何故 落ちぬ... 」 落ちるものか。幻惑である故。 蓬も羊歯も落ちぬ。肌守りで対策じゃ。 幼少より知っておるのに、敵わぬ。 「俺は 山頂に行く故」 「儂も行く」 「着替えよ。はしたなくある」 榊は くるりと回り、緋地の着物を身につけた。
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