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******** 頭蓋は これまで 二度程 被ったが 耳は隠れぬ。顔も変わらぬ。もう良い。 鏡さえ見ねば、自分の顔など わからぬ故。 榊は、色香をやめたが また武に励み出そうとした。懲りぬものだ。 『儂は力がない。突けぬ』と 白金(しろかね)なる刀を 玄翁から賜り 『刃は 邪を避けるものよ』と うまく言われ 『ふむ』と、幻惑解除術に励んでおる。 そうしておるうちに、榊は齢三百を数え 俺は四百八十程。 榊は 神隠しなども会得し、尾は 二つに割れた。 『人化けを完璧にする』と どこぞから頭蓋を手に入れ、まだ被っておる。 里には、白蘭という混血の狐がおったのだが 藤の後に、四の山の山神となった白鷲を討ち その白蘭が四山の山神となった。 だが、呪い子を産むのだ。何か不穏にある。 「ふむ! 人化けが成った!」 榊は もう、耳も尾も出ぬ。 「玄翁! 人里に出ても良いと言うたな?!」 「うむ。行って参ると良い」 榊は頭蓋を持ち、遊びに来ておった露さんと 勇んで里を駆け出て行った。 最近、蓬も見ぬ。使いに出たままじゃ。 六山のいずれかであった故、危険はないと思うが 里の者等が探しに出ておる。 「榊は 良いのか?」と、玄翁に聞くと 「榊は もう、術ならば儂に次ぐ。 人里にて、様々なものを吸収すると良い。 許可する前に出ておったしのう」との事じゃ。 俺は術は からきしである故、羨ましくある。 頭には 憎き耳もあるしの。 しかし 人世の戦後辺りより、玄翁は洋装じゃ。 舶来品など どこで知ったものか。 里の者が誰も気付かぬよう、幻惑を掛け 時に 一人、人里に降りておると思われる。 二度程、慶空の背を地につけた。 懐に入り突いた時と 跳び、着地前に突いた時じゃ。 無上の喜びであった。 慶空には まだ並べぬが、いつか並ぶ。 新しく柄の黒い薙刀を、玄翁に賜った。 薙刀は良い。斬るより突くが (しょう)に合うておる故。
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