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展望台の駐車場の瓶のゴミ入れの隣に 「入らん」と、葡萄酒の空き瓶を 二本 置き 「乗れ」と 自分が前に乗る。 「珈琲を買いに行く。店で お前が買え」 「(つの)などがあろう」 人に見られようよ。 「俺は姿を見えなくして乗る。 透明人間と 二人乗りに見える」 ならぬであろう。しかし 面白い。 結局 俺が後ろに乗ると ボティスは本当に姿が見えぬようになった。 車などと擦れ違ってもお構い無しじゃ。 「泰河(あいつ)等にバラすなよ。仕事だ。 透明人間を追わせてやる」 良いのであろうか? だが 笑うてしまう。 見えぬのだから追えぬであろう。 「浅黄」 「うむ」 見えぬ背中が物を言う。 「俺は 時々だけ、ひどく疲れる時がある。 俺が俺に合う役割を果たす時だ」 自分で自分を嫌う時であろうのう。 許されたくある。 もう、麓は近くある。 「うむ。俺もある」と 答えると 「そういった時は、俺に話せ。俺もそうする」と 見えぬ背中が言うた。 「俺は玄翁に、里に立ち入る許可を得に行くが お前が俺を呼びたい時は “ボティス” と言うだけだ。契約中や他の仕事中の時は遅れるが 必ず行く。約束する」 「うむ」 何か 嬉しくある。 「だが、そろそろ俺が漕ぐ故 後ろに乗ると良い。人里では目立ち過ぎる故」 「面白いだろ? 多分 写真を撮る奴もいるが お前も写らん。自転車の写真となる」 「ならぬ。この自転車は泰河に貰った故 泰河にバレる」 ボティスは 素直に自転車を降りた。 それはつまらぬ と思うたようだ。 珈琲の店の前にて「買って来い」と 人里の紙幣を渡された。 「正当な契約(ろうどう)で手に入れた金だ。 そいつの魂は飲みたくなかったからな」
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