1.ステージから下りて来たジョー

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1.ステージから下りて来たジョー

 7月の初め、梅雨の中休みのカンカン照りで風の無い土曜日だった。制服のスカートが分厚くて暑苦しいと思った。入学して3か月。高校にも少し慣れて、面白いことないかなぁと思っていたところ、野球部の甲子園予選壮行会が講堂であると聞いて、真紀に誘われて二人で観に行った。吹奏楽部がマーチでも演奏するのかなぁと思っていたら、いきなりロックバンドが出てきて驚いた。  リズミカルな曲が始まって、ふんふんと聞いていたら、メイン・ヴォーカルの人が外人みたいな英語の発音で、思わず真紀と顔を見合わせた。二曲目も同じようなテンポの良い曲で、後ろの方にいた男子たちがワイワイ叫んで楽しんでいた。私たちも手を叩いて声援を送っていた。三曲目の途中で、リーダーらしきギターの人がメンバー紹介していて、、ヴォーカルの人が「ジョー」と呼ばれていることを知った。  アンコールでチューリップの「青春の影」が歌われて、なあんだ、最後は日本語でジョーじゃないんだと思った。終わった後でぼんやりしていると、真紀が「早く、早く」と急かすのでついて行くと、彼らはちょうどバックステージを下りるところだった。「握手してください!」と女の子が殺到していて、私たちも列に並んで4人全員に手を握ってもらった。私が思い切って「歌、素敵でした。」とジョーに話しかけると、彼は微笑んでウィンクしてくれた。やっぱり外人みたいだった。  帰りの電車では当然バンドの話で盛り上がった。私が「ジョーが気になる。」と言うと、真紀は、「うん、ジョーもカッコいいんだけど、あのリーダーのアキラという人、どこか寂しそうで遠くを見つめるような目をしていた。」と大人っぽいことを言う。「へぇ、そんなとこ見てたんだ。私、わからなかった。」と正直に話すと、「私、お兄ちゃんがいるから、なんとなくわかるんだ、男の人のこと。」という返事。事の真偽はともかく、二人であのバンド「レイジーボーイズ」のファンになることを決めて、幸せな気分で家路についた。  後で知ったのだけど、あのバンドの人たちは未だ2年生で、私たちより一つ上だということだった。高校の1年間でこんなに差がつくものなのか、あるいは私が幼すぎるのか、どちらかなのだろう。いつも通り、私は自分の幼さを早生まれのせいにして無理やり納得していた。  情報通の真紀がレイジーボーイズのライブ情報を仕入れて来たのは翌週だった。
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