黒助様

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黒助様

今宵お話させていただきますのは、何百年も昔のお話、江戸時代のこと。哀れな振売りの男の話でございます。 振売り。お嬢さん方はご存知で? ありゃ。そこのお兄さんは、しきりに頷いておられますな。 振売りといいますと、今では何と申しましょう。竿竹屋。わかりますかね?たあーけやぁー、さおだけぇーっていう、あれですね。私、なかなかいい声でございましょ。声には自信あるんですわ。で、なんでしたっけ?あ、ああ、竿竹屋さん。そうです、そうです。とんと、物忘れがひどくて。堪忍です。 振売りというのは、竿竹屋さんみたいな商品を売り歩く人のことでございます。行商人、と言えば聞こえはいいですが、当時は子どもや老人、体の不自由な者たちが働くための職業でございましてね。 この男、名前を巳之助と大層な名前がついておりましたが、この巳之助も不運なことに手を悪くしましてな。それまでは、親から譲り受けた田んぼでようよう生活しとりましたが、手が使えなくなってはどうにもなりません。田んぼを親戚にゆずりましてね、自分はその親戚から安く売ってもらった農作物を売り歩くということをしておりました。     
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