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お屋敷には離れたところに小屋がありまして、だいたい誰か奉公人がー何のためかはわかりませんがー小屋の中におりまして、振売りでございます、とお伺いすれば、いつもはそれで話が通じるんでございますよ。それが、やい、そんな薄汚い野菜を売るとはどういう了見だ。失礼千万、番屋に突き出すぞ、とこれまたひどい言いがかりでございました。
終いには、火かき棒まで振り回されて、巳之助もあっちこっちを打たれながらほうほうの体で逃れました。泥まみれになりながら火かき棒を避ける巳之助を番頭さんは嗤ってましたよ。そんなやりとりの折に、本当に野菜は薄汚くなってしまいましてね。とても人様に売れるものではなくなってしまいました。
食べるにしても、ほとんどは捨てるしかない有様です。巳之助は、意気消沈しました。強かに打たれた左手が痛むわ、逃げる折に捻ったのか、足首もなんだか調子が出ずに、とぼとぼと歩くしかありません。
ところで、小屋の奥には川がありましてね。そこから、丘を登ると原っぱに出ます。丈の長い草が無造作に生えてるような場所で、虫も憩いの場とばかりに飛んでいるんですが、巳之助はその原っぱが好きでした。
なんと言いますか、取り残されているんですね。すぐ下には、喧々とした人の世が繰り広げられているのに、ここではそんなのお構いなしにゆらゆら草が揺れている。そんな様子が、巳之助にはなんとも癒される場所に映りました。
嫌な目にあった。今日は商売もできない。なら、サボっちまおう。
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